大判例

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東京高等裁判所 昭和27年(う)438号 判決

原判決が本件につき累犯加重の前提となるべき前科に関する事実の説明として、単に「前科、一、昭和二十一年十月十日東京区、窃盗、懲役六月」と記載したのみで刑法第五十六条第一項第五十七条に基き累犯の加重をしていることは論旨指摘の通りである。

而して論旨は斯る程度の記載では前科に関する事実についての充分な説明があるとはいえないから、本件累犯加重の措置については理由不備の違法があるというのである。然るに原判決の記載はやや簡潔に過ぎる嫌いはあるが、原判決は被告人が刑法第五十六条第一項に該る累犯者であることを説明しようとしたものであつて、要するに被告人が昭和二十一年十月十日東京区裁判所で窃盗罪により懲役六月に処せられ、該判決は当時確定し、被告人は既に刑の執行を受け終つたものであつて、其の後五年を経過しないのに本件犯罪を再び行つたものであるという意味であることは諒解に苦しまないところである。

左れば以上の原判決の記載を捉えて理由不備ありとするには足りないのである。論旨は理由がない。

同第二点について。

原判決挙示の証拠によれば、判示事実は之を認め得べく記録を精査しても事実誤認と認むべき点はない。

即ち被告人は判示電車内で金銭(紙幣)を窃取する目的で被害者のポケツト内に手を差入れ掏取つてみたところが、紙幣と思つたのは実際は判示の如き被害者所有の常務役員会開催通知書(一枚)であつたのである。論旨は右通知書は既に用済みのものであつたから反古も同然で全然経済的価値を有しないものであり、窃盗罪の対象である財物視すべきものではないし、又行為の違法性の方面からいつても本件は零細なる法益侵害というべきであり、違法性阻却の原由となるから結局被告人は無罪たるべきものであると主張するのであるが、仮に現に被告人が掏取つた物件が刑法第二百三十五条に所謂財物と認めることができないとしても、被告人は紙幣を窃取するつもりで行為に着取したところ掏取つたのは案に相違して紙幣ではなく前記通知書であつたというのであり、当初から右通知書を目ざして之を窃取したものではないから、被告人の行為は尠くとも窃盗未遂罪を構成すべきものであることは疑いの余地がないのである。故に被告人の所為は零細の反法行為だから違法性をかき何等窃盗罪成立の余地がなく無罪たるべきものであると論ずるのは誤つている。

次に被害物件は一片の通知書であり、被害者も亦原審公判廷で「用途は既に済んだものであつて別に私としてはなくても困りません、只保存して置く程度のものに過ぎない」との趣旨の証言をしていることは論旨のいう通りであるが、之を以て右通知書は全然反古に帰したものであると解する必要はない。即ち通知書は既に本来の主要目的たる通知の用は達したにもせよ、所有者は之を真に反古として棄ててしまわずに之を所持していたのであり、其の効用も亦全然失われてしまつたと断定することはできないのである。即ち之を保存して置くときは他日尠くとも備忘的な効用を果し得るのであり、被害者が前記の如く「保存して置く程度のものに過ぎない」といつたのは斯る意味を包含するものであると解することもできるのである。斯く一応本来の主たる目的を達した事物を保存して置き他日役に立てるということは日常の生活現象であつて、之に対し一概に経済的価値が殆ど無いという理由で法的保護を拒否すべき理由はない。即ち本件通知書は所有権の対象たり得るものであることは勿論であり其の効用も亦全然失われていると看做すべきものではなく、換言すれば其の所持を保護すべき所謂財物たるを失わないから、被告人の所為を以て窃盗罪の既遂であるとした原審の態度は不当とはいえない。

論旨は理由がない。

(註 本件は量刑不当により破棄自判)

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